居酒屋にて


 少し前のことになるが、友人及び僕のカノジョと駅前の居酒屋で飲んだ。

いい気分で会計を済ませていると、18歳くらいの少年と店員が1cm程の
距離に顔を近づけた状態で睨み合っていた。

その後ろには、少年の友人と見られる同年代の少年と少女が見守っている。


なんだなんだ・・・?

と思いつつ、近くに寄って様子を探ると、どうやら店員と少年がモメて
いるようだ。


店員「未成年者のご入場は出来ません!」

少年「未成年じゃねぇーよ!!!」

店員「では身分を証明できるものを見せてもらえますか?」

少年「んなモンねーよ!!!」


・・・少年は既に少々酔っているようである。


店員「身分を証明できない方のご入場もお断りさせていただいています」

少年「何だとぉ?コラァ!!!」

店員「・・・お帰り下さい」


そこで少年は後ろで待っている友人達を振り返り、
「何だろうな?このバカは?」
とでも言いたげな表情で同意を求めようとしたが、既に彼らは少年の行動に
ドン引きしており、顔を引きつらせていた。


友人達の協力も得られず、哀れな少年はついに
「こんな店、二度とこねぇよ!!!・・・帰ろうぜ」
と店員に背を向けた。

それまで怒りを抑えて肩を震わせながら応対していた店員は、あれほど
失礼で迷惑な客に対して最後に一言。

「ありがとうございました」

その言葉に『ブチッ』とキレた少年は、オレが最も聞きたくない言葉を
口にした。

「死ね!!!!!」

そして、その礼儀正しく、仕事に忠実な店員に対してツバを吐きかけた
のだ。

仏の顔も三度まで、という。

オレも人の過ちや礼を欠く行為を腹に溜めず、サラッと流して忘れたり
許したりすることにしているが、怒る時は怒ろう、と最近考えを改めて
いる。

親とか、センセイとか、近所のオヤジとか、社会が甘くなっているから。
周りの人間が仏というよりは能面のような無表情、無関心でヤツらを増長
させ続けてるからイカンのだ。


オレはその場では部外者であったが、さすがに
「何だ、てめいは!」と思った。

そして更に店員が拳を握りしめたのを見て、

「彼が手を出したら店員を助けよう、そしてドサクサに紛れて
回し蹴りの一発も入れてしまうかも知れんけんね!!!」

と瞬間的に少年に対して宣戦布告した。


ところがですね、まぁ、良く出来た店員さんでして、なんとなんと
もう一度頭を深く下げ、

「ありがとうございました」

と言ったのだ。

オレはまことに恐れいった。参りました。それでこそオトコだ。


オレも店員に対して頭を下げているところへ、かの少年がもう一度

「死ね!!!!!」

といってツバを吐きかけた。


しかしオレは既に冷静であり、警察を呼んだ方がよいのでは?
と別の店員に訊いてみると、既に呼んである、ということであった。


そこへ、トイレに行っていたオレのカノジョが戻って来た。

「あのヒトたち、仲いいね〜♪」

「え?店員とガキのこと?仲いいどころか、ケンカしてたんだよ」

「え〜。でも、キスしてたみたいよ!」

え〜と。・・・・・睨み合っていたんですけど。

しかし、どうしてあんなに顔を近づけるんでしょうかね。
あそこまで近いと、近眼のオレでも焦点合いません(笑)